購買業務は製品を製造する、備品を調達する上で欠かせない業務ですが、お金や資材を扱うため、不正が起こりやすいです。しかし、具体的にどのような不正が発生し得るのかを知らなければ、事前の対策ができないでしょう。

本記事では、購買業務に関する不正事例を3つ紹介した上で、購買業務で起こり得る不正の手口や不正が発生する要因、購買リスクへの対策方法について解説します。

購買業務の不正事例を知ることで自社の不正対策の参考になるため、ぜひ最後までご覧ください。

購買業務に関する不正事例

そもそも購買業務とは、注文、検品、代金支払いなどを行う業務のことを指します。現金・手形などの金銭や商品、原材料を取り扱うことから、架空発注や無断転売などの不正が発生したケースも少なくありません。

企業によっては購買担当者に対して経営や財源に影響を及ぼすような権限を付与していることもあるため、特に厳しいリスク対策が求められます。

ここでは、過去に起こった不正事例を3つ紹介しますので、自社の購買業務のあり方を見直すきっかけとして役立ててみてください。

【不正事例1】補修材等の名目で架空発注した消耗品を私的利用

1つ目の不正事例は、上下水道局の下水道管理事務所に勤めていた職員らが、補修材等という名目で約148万円分の消耗品に関する架空発注を行い、私的利用していたという事例です。

架空発注とは、事実とは異なる虚偽の注文を行い、物品の差し替えなどを働く行為のことを指します。

この事例では、補修剤等の名目で虚偽の見積書や納品書を作成・入手して、事務担当者を騙し、契約内容とは異なる手袋や合羽などと差し替えて職員が入手しています。事務担当者が把握している契約金額と、差し替えられた商品の代金には差額があるため、事業者へ約28万円分の預け金も発生しました。

不正機会を与えてしまった企業側の原因

職員に不正機会を与えた企業側の問題として、材料発注に関する見積書の作成が担当者任せになっていたことや、材料の在庫管理が行き届いていなかったことが挙げられます。また、納品時の検収をしっかりと実施していれば、見積書に記載の物品と、納入後の物品の違いが分かるため、不正を防げた可能性もあります。

職員の言い分として「消耗品の購入頻度が多いことから、事務担当に依頼しづらかった」「必要な商品を早く手に入れたかった」という声があったことから、社内の購買ルートの整備が不十分であったおそれもあります。

加えて、禁止行為について定めた「服務規律」の認識が職員らに不足していたことも、不正が起こった一因といえるかもしれません。

企業が考えるべき再発防止策

本件に関し、企業が考えるべき再発防止策としては、以下が挙げられます。

  • 購買管理システムを導入し、発注から検収までを見える化する
  • 材料の購入数や在庫数は、各事務所の標準化された在庫管理表で管理する
  • 見積依頼時は、材料購入の必要性や見積徴収依頼先等を確認した上で所属長の承認を得る
  • 納品時の検収は複数人で実施し、原則管轄の管理職が検収する
  • 再発防止に向けた服務規律に関する社員研修等を行う

上記のとおり、材料の購入数や在庫数について購買管理システムや在庫管理表でしっかりと管理したり、材料購入の必要性を購買管理システムと照合して確認したりするなどの対策を立てることが重要です。

また、納品時の検収を管轄の管理職が実施すれば、管理者によるチェックが入るため不正防止につながるでしょう。

【不正事例2】資材の無断転売による代金の着服

2つ目の不正は、配電制御・機関監視制御に関するシステム等の製造販売を行う会社で、従業員が無断で原材料を他社へ転売し、総額6億3000万円の売得金を着服していた事例です。

この不正行為では、銅材を融通してほしいと申し出があった2つの会社に対して、自社の在庫である銅材を「銅スクラップ」として不正に売却して、現金で支払われた代金を着服していました。

不正を働いていた従業員の担当業務を一時的に後任者に引き継いだ際、領収書の発行について取引会社から連絡を受けたことがきっかけで不正行為が発覚しました。

不正機会を与えてしまった企業側の原因

不正機会を与えた企業側の問題は、銅材に関する以下の処理を従業員一人に任せていたことにあるでしょう。

  • 外部業者への銅材の発注・代金支払処理
  • 銅材入庫時・出庫時の基幹業務システムへの入力
  • 銅スクラップの売却
  • 実地棚卸時の棚卸結果の記入指示

上記のような処理をすべて従業員一人に任せていたため、内部統制が正常に機能していなかった可能性があります。また、実地棚卸時における棚卸結果の記入指示も不正行為を働いた従業員が実施していたため、数量を調整されていました。

企業が考えるべき再発防止策

今回の不正事例で特に問題となるのは、現金取引が可能であったために、従業員一人で銅スクラップ販売、代金回収ができていたことです。加えて、銅材の管理に関する一連の業務がブラックボックス化していたことも、不正が発覚するタイミングを遅らせる要因となりました。

そのため再発防止策としては、承認フローがある購買管理ステムの導入や現物管理とシステム対応を一人の担当者に一任しないこと、社内の業務フローを定期的に見直すことなどが有効です。

また、今回の不正行為で用いられていた領収書は、シリアル番号が記載されていない市販品でした。自社の従業員ではなく、取引先企業の従業員が何らかの不正を働いていることも考慮して、チェック体制を厳格化しておくことが重要といえます。

【不正事例3】多数の従業員がさまざまな不正により金銭等を着服

3つ目の不正事例は、空調機器設置工事を行う会社で100人超の従業員が不正なキックバックで金銭等を着服していたというものです。主な不正行為としては、以下が挙げられます。

  • 水増し発注
  • 販売手数料の不正取得
  • エアコンの無断転売
  • 資金環流を目的とした発注

この事例では、一部の営業担当者が交通費の捻出を目的に始めた不正行為が次第に社内に拡大し、最終的には取引先との過剰な飲食費をはじめとする交際費や、社員間の私的な飲食費などに使われるようになりました。

不正機会を与えてしまった企業側の原因

社員に不正機会を与えた企業側の問題としては、以下のようなことが考えられます。

  • 独立した購買部門がなく、購買プロセス上の管理が不十分であった
  • 予算管理に関して抜け道があった
  • 対象社員と取引先企業の癒着を見抜けなかった
  • 管理部門の管理が不足していた
  • 監査役監査、内部監査が正常に機能していなかった
  • 社員のコンプライアンス教育が行き届いていなかった

上記の中でも、独立した購買部門を設置していなかったことにより購買プロセス上の管理が不十分であったことが大きな問題点といえるでしょう。また、管理部門が十分な役割を果たしていなかったことも、不正行為を社内に蔓延させた一因である可能性があります。

企業が考えるべき再発防止策

100人超の従業員が金銭等を着服したこの不正において、企業が考えるべき再発防止策には以下が挙げられます。

  • 購買プロセスを改善する
  • コンプライアンス強化のために購買管理が行えるシステムを導入する
  • 予算管理方法の見直し、周知徹底を行う
  • 仕入れ業者との関係の正常化を図る
  • 管理部門の牽引力を強化する
  • 監査役監査、内部監査を強化する
  • 社員のコンプライアンス教育を実施する

上記のとおり、社内の購買プロセスを改善すれば、不正行為を防止するための大きな一歩になることは間違いないでしょう。加えて、監査役監査・内部監査の強化により正常に機能する通報窓口を設置でき、不正行為に対する牽制が可能です。

購買業務で起こり得る不正の手口


ほかに、購買業務で起こり得る不正の手口としては、キックバックや横領、循環取引などが挙げられます。

不正の手口 該当する不正行為
キックバック 一定の売上高や取引を達成した際、売り手(メーカー)から買い手(代理店等)へ支払われる報奨金・謝礼金を、社員が個人的に受け取る行為
横領 会社から預かって管理する金銭や物品を、無断で自身の所有物にしたり、勝手に売却したりする行為
循環取引 複数企業が共謀の上、特定の商品について架空の売買を行い、売上や利益を不正に計上する行為

上表のとおり、それぞれの不正行為には特徴があります。以下の項目で詳しく見ていきましょう。

キックバック(リベート)

キックバックとは、メーカーなどの売り手が、代理店などの買い手に対して支払う「報奨金・謝礼金」を指す言葉です。「売上割戻」とも呼ばれているほか、「リベート」という言葉もキックバックと同じ意味で用いられています。

一定の売上高や取引を達成した際に支払う「販促を目的とした手法」であるため、本来は法律違反ではありません。しかし、会社間での合意がないまま、社員が個人的にキックバックを受け取ったり、発注額にキックバック費用を上乗せして会社に損害を与えたりすると、違法性を指摘されるケースがあります。

横領・背任

横領とは、他人から預かった財物を自身の所有物にしたり、勝手に売却処分したりする行為を指し、自身の利益を目的として行為に及んでいることが特徴です。

一方、背任とは、自身に与えられている権限を利用して企業に何らかの損害を与える行為を指します。自身の利益を目的とした行為のみならず、第三者利益を目的として働いた行為も該当する点が横領との違いです。

循環取引

循環取引とは、特定の商品売買を複数の企業が繰り返して、売上や利益を不正に計上する取引のことです。企業を跨いだグループ内で商品売買が行われ、帳簿上では取引したように見せかけますが、実際は商品が移転されていません。

循環取引を行う目的には、「売上ノルマ達成に向けた売上高の水増し」「利益の付け替えによる損失の隠ぺい」「短期的な運転資金の確保」などが挙げられます。

購買業務で不正が発生する要因

購買業務で不正が発生する要因を探る際は、アメリカの犯罪学者が提唱した「不正のトライアングル」という理論が役立ちます。不正のトライアングルでは、「機会」「動機」「正当化」の3つの要素がそろった際に、不正行為が行われるとされています。

「動機」「正当化」の2つの要素に関しては、不正行為を働いた人物の主観が反映されています。動機には「消耗品を入手したい」「生活費が足りない」などの理由が当てはまり、正当化には「前任者も同じことをしていた」「企業経営には大きく影響しない」といった考え方が当てはまるでしょう。

しかし、「機会」に関しては、従業員を雇用している企業の管理体制が大きく関係します。本記事で紹介した不正事例のように、購買プロセスがブラックボックス化されて担当者に権限が一任されていたり、納品後の検収確認が不十分であったりすると、「機会」の要素を与えてしまうことになるのです。

購買業務における不正を防ぐ方法として、購買のシステムやフローそのものを見直すことが重要といえます。

購買リスクに対策する方法

ここからは、購買リスクに対策する方法を2つ紹介します。

購買プロセスの内部統制を図る

購買業務に潜む不正リスクを低減させる方法として、購買プロセスの内部統制は大きなポイントです。内部統制に有効な一つの施策としては、「予算執行」「仕様設定」「購買発注」を三権分立させることで、購買業務のブラックボックス化を防ぎやすくなるでしょう。

また、購買業務では「いつ」「どこで」「誰が」「何を買っているか」といった記録をしっかりと取り、社内で管理することが重要です。記録を取ることで、発注・検収・受入に関する手続きを適正に行い、買掛金残高の管理を徹底できます。

さらに、記録データを一元管理できるシステムを導入することで、業務効率のアップやさらなる不正対策につながるでしょう。

購買業務の内部統制については以下の記事で詳しく説明しています。ぜひご覧ください。

購買プロセスにおける内部統制の必要性|購買業務における不正リスクも紹介

購買管理システムを導入する

購買リスクの低減に向けて、購買管理システムを導入することも有効です。購買管理システムを導入すれば、購買業務の透明化を図ったり、購買ルールの遵守を徹底させたりすることが可能になります。

ビズネットの「購買管理プラットフォーム」の導入により購買業務の可視化に成功した実際の事例として、ある学校法人では「物品購入前のオンライン申請・承認」「過去の購入履歴のデータ化」を実現しました。購買業務の透明化を進められたため、文部科学省の助成を受けるための条件適応に向けた整備や、経費精算業務の効率化も成し遂げています。

ビズネットでは、上記のような購買の一元化管理を実現する「購買管理プラットフォーム」を提供しています。これまで14,000社以上の企業様にご利用いただいており、購買プロセスの可視化はもちろん、業務コストの削減にも貢献してきました。

購買管理プラットフォームについて詳しく知りたい方や興味がある方は、以下のリンクをご覧ください。

購買の不正事例を参考に購買コンプライアンスの徹底を!

架空発注や無断転売といった不正を助長する企業側の要因としては、購買プロセスが不透明であることや、担当者に一任したことによる購買業務のブラックボックス化などが挙げられます。

不正リスクの低減に向けて、社内の購買・調達に関するコンプライアンス教育を徹底することはもちろん、自社のニーズに適した購買管理システムの導入がおすすめです。

ビズネットの「購買管理プラットフォーム」なら、社内ルールに則った購買や、請求処理の一元化などが実現できます。導入・運用に際しては、当社の担当者やコールセンターによる徹底したサポートを実施しているため、安心してご利用いただけます。

購買業務の不正リスクに対してしっかりと対策したい企業担当者は、ぜひ「購買管理プラットフォーム」の導入をご検討ください。

この記事の監修者

ビズネット株式会社

受発注の業務改善によって顧客サービス向上と新たなビジネスの展開を支援する「購買管理プラットフォーム」を14,000社以上の企業に提供しています。電力、電設、建設・医療・製造などの現場専門品の購買業務を最適化し、業務やコスト削減・生産性向上を実現いたします。

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